夏の陽

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田舎は暑いところだと、だいたいの相場は決まっている。あの事件が起こったのも、暑い夏の田舎だった。 数日前、ひとりの男が、幼児5人を誘拐して殺した。犯人は捕まり、事件は終結したが、親族の痛みは… 「親族の痛み?こいつら何も分かっちゃいねぇ!」 父親が、縁側で新聞を投げつけた。新聞は庭の花壇に着地して、だらりと菜の花の上に被さった。 「お父さん、行ってきます」 拓海は父親にひとこと言うと、近くの河辺へ向かった。流れが緩やかで、今までに事故例は報告されていない、安全な河辺だった。 そこに、ひとりの女の子がいた。彼女は血だらけで、見覚えがあった。 「おはよう…」 拓海は恐れた。父親が投げつけた新聞に、はっきりと載せられていた顔写真、そこに彼女の顔があったのだ。 彼女は体に塗られた血を河辺で洗い、拓海に言った。 「おはよう」       夏の陽
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