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次の日にも、彼女はいた。
まだ朝日が灯る河辺に、彼女は笹舟を流していた。
「ああ、拓海君…おはよう」
「おはよう。何してるの?」
「死んだ子に舟を出してるんだ…天国へ行けますようにって」
「天国…でも君は…」
その先は、拓海には言えなかった。まだ、言えなかったのだ。
「競争しよう」
「競争!?なにそれ…」
彼女が笑いながら言うと、拓海の心は苦しくなっていった。彼女が真実を知った瞬間、今までの笑顔が全て失われるような気がしたのだ。
「そうだよ、もう全員分の笹舟は出したでしょ?だから、今度は競争しよう」
「いいわよ」
ふたりは笑い合った。しかし、その顔にはどこか、暗い部分が見え隠れしていた。そのことに、拓海は気づかないふりをしながら、彼女との親交を深めていった。
一緒に虫を取るたび、一緒に河で泳ぐたび、拓海は、その笑顔に隠された真実に、見てみぬふりをしていた。
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