夏の陽

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「ちょっと、ちょっとあなた!」 拓海の母親が、縁側で夜空を見上げる父親に歩み寄った。新聞を投げ捨ててから数日、ずっと縁側から離れなかった。 「悲しいのはあなただけじゃないのよ!?この村の人全員が悲しいの!みんな家族ですもの!!この村全員が家族なのよ!あなただけが悲しいんじゃない」 「うるさい!分かってるそんなことは分かってる!だからこうして…悲しんでるんじゃないか…」 父親が涙を浮かべた。これは彼のサインだった。今からケンカをするサインだ。 拓海はこのサインが見えた時、必ず外へ出た。今日も同じ、小一時間、外で過ごすつもりだ。 河辺に、彼女がいた。彼女は拓海に気づくと、拓海に近づいた。 「話があるの」 「奇遇だね‥僕もだ」 「雪乃、君はもう死んでるんだよ」 夜空に、その言葉は静かに響いた。
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