夏の陽

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彼女は笑った。笑って、拓海の手を握りしめた。 「ごめんなさい。私、黙ってたことがあるの…あの日、君に出会ったあの日、君の死体を見たのよ。この河を、ゆっくり流れてた。私はそれを触って血だらけになったの」 「え?」 拓海にはその言葉の意味を、理解出来なかった。自分は生きている。 「君の死体は、あの奥。ちょうど大きな岩があって見えないけど」 「何言ってるんだ!死んだのは僕じゃない!君だよ雪乃!」 「なら見てよ」 雪乃は拓海の手を握りながら、河の流れのに沿って歩いた。もちろん、その河は冷たく、流れる感覚も拓海の足に伝わった。 しばらく進むと、ずしんと仁王立っている大きな岩があった。河の流れは二股に別れ、右側は途中で草や木で塞がれていた。 そこにぷかぷかと浮いている死体。草や木に邪魔されて、先に進めないでいた。 その横に一艘の笹舟が、河と通せんぼうしている草木に、挟まれて揺れていた。 「あの死体が君の体、そして…あの笹舟が、君の魂よ」 「そんな…嫌だ」 真実を目の当たりにした瞬間、涙が零れ落ちた。その流れた涙は、河の水に落ちる前に消えて無くなった。
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