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「ふうん……」
僕の口からは、その一言しか発せられなかった。
おめでとう、さえ言うことが出来ない自分に嫌気が差す。
「もう、それだけ?なんかもっとこう…ないの?」
言葉に反して、彼女は笑っていた。
いつか見たような綺麗な笑みだった。
もしかしたら僕は、期待していたのかもしれない。
彼女なら、僕を愛してくれるんじゃないかと。
僕はなんて愚かなんだろう。こんなにも綺麗な彼女が、性根まで汚れきった僕を好きになってくれるわけがないじゃないか。
馬鹿か、僕は。
――いや、阿呆の方が正しい。
誰にも褒められない、僕の無駄な脳の片隅が僕の言葉を正そうとする。
間違えたら怒られるから、それに抵抗はしない。
彼女は昨日の出来事を分刻みに僕に伝えてきていたが、その欠片さえ僕が覚えていることは無かった。
教室の喧騒が、やけに頭に響く。
うるさい、うるさい、うるさい!
そう叫ぶ事は叶わない。
彼女に醜態を見せるわけにはいかないからだ。
「おめでとう」
喉がからからに渇いて、酷く掠れた声がみっともない。
絞り出すように呟いたその台詞は、始業を知らせるチャイムにかき消された。
じゃあ、また後でね。
そう言って身を翻した彼女に僕は反射的に手を伸ばす。
けれどその手は空を切り、無意味な物に変わった。
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