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「ところで、こんな森の中を一人で何をしている?」
乙葉の問いかけに勇太は何か思い出したのか、顔を青く染めると
「僕のおとうを助けてください!」
乙葉の腕を力強く掴んだ。
「おとう?」
「おとうと一緒に山の見回りをしていたら、おとうは誤って足を滑らせて崖から落ちたんだ!」
「意識はあるか?」
「うん。
でも、足を挫いたみたいで一歩も動けないんだ!
だから、助けてくれそうな人を探してたら妖怪に襲われてっ!」
余程危ない状況なのか、どうにか助けてくれないかと必死に言葉を並べる勇太の瞳には薄らと涙が浮かんでいた。
「よく頑張った。
さぁ、案内してくれ。
勇太の父上を助けに行こう。」
「あっ、ありがとう!!こっちだよ!」
青い顔が一転笑顔になると、勇太は乙葉の腕を引っ張り走り出した。
※
「ここだよ!乙葉様!!
この崖の下におとうがいるんだ!」
二人は崖の下を覗き込んだ。
少し深めの崖底には勇太の言うとおり、息子の帰りを待つ男の姿があった。
「おとうっ!」
勇太の呼びかけに、男は顔を上げる。
「勇太っ!」
「助けてくれる人、探してきたよ!
もう少しだから待ってて!!」
「おう!」
父の元気そうな返事を聞くと、勇太はほっとした感じで乙葉に体を向け直したが、すぐに表情は雲ってしまった。
「乙葉様、これからどうするの?
引っ張り上げる為の縄なんてないし……。」
「大丈夫だ。縄など必要ない。」
乙葉は懐に手を伸ばし、難しい文字が書かれている一枚の四角い白い紙を取り出した。
そしてその紙を宙へと放り投げる。
ボンッ!
小さな音と少量の煙と共に、紙は一瞬にして見たこともない生き物へと変わった。
馬の体に、頭顔、足、尾は鳥の形をした桜色の羽と翼を生やす奇妙ながらも美しい生き物は地面へゆっくりと降りる。
「こやつは私の式神だ。」
驚いて後退りする勇太に、乙葉は害がない事を伝えようと生き物の嘴を優しく撫でると、生き物は乙葉の手のひらへと軽く嘴を押しつけ喜んでいるような表情を見せた。
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