宣戦の書

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「ハァッ!!ハァッ!!!」 草木が生い茂る森の中、息を切らしながらも必死に走り回っている中年の男。 ザザザザザザザザザァァアッ!!!!! 背後には、草木を掻き分ける音を激しく立たせながら迫る虫型の巨大な妖怪がおり、鋭い牙が並ぶ口を広げ今にも男を喰らおうとしていた。 迫り来る恐怖に男は無我夢中で足場の悪い山道を転げそうになりながらも走り続けるが、妖怪の大きな口との距離は徐々に縮まっていく。 「うわっ!」 男は出っ張っていた石につまずき地面へと倒れた。 その姿を見て、妖怪はこれは機だと巨大な牙を剥き出しにし、倒れ込んでいる獲物へと勢いよく飛びかかった。 「もっ、もう駄目だぁああッ!」 恐怖の悲鳴が響いた次の瞬間! ヒュン―… 光をまとった矢が目にも止まらぬ速さで飛んできたかと思うと、妖怪へと突き刺さった。 【ギャャア゙ァ゙アアァアアアアアッ!!!!】 奇声が轟き、巨大な体が大きく反り返る。 刹那、妖怪は木っ端みじんに砕け散った。 「間に合ったか……。」 木の陰から光沢のある長い黒髪を風になびかせ安堵の表情で現れたのは、凛とした一人の巫女。 「乙葉様っ!」 「無事でよかった。立てるか?」 美しい鈴の音を連想させる澄んだ声が、九死に一生をえた男の恐怖心を一瞬にしてほどいた。 両親と死別してから八年。 乙葉は少女から女性へと立派に成長した。 更に母親譲りの容姿はそこらの村娘と比べ物にならないほど美しく、乙葉を見た誰もが息を飲むほどであった。 そんな乙葉の厳しくも優しい曇り無き清んだ瞳が、美しさにより一層磨きをかける。 「さぁ、帰ろう。」 地面に座り込んでいる男にそっと手を差し出すと、優しく微笑んだ。 ※ 「あっ!乙葉様だ!! 乙葉様が帰ってきたぞ!」 その一声に、村人達が一斉に村の入り口へと集まり、帰ってきた乙葉を出迎え 『乙葉様!お帰りなさいなさいませ。』 『乙葉様、おかえりなさい!』 などと、口々に言葉をかけていく。 .
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