宣戦の書

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「おっとう!」 群がる村人達の中から女の子が飛び出し、勢いよく男へと抱き付いた。 「無事だったんだね! 帰りがいつもより遅かったから心配で、乙葉様に探してくださるようお願いしたんだよ。」 「そうだったのか。ありがとう。 お陰で助かったよ……。」 安心感がどっと押し寄せてきたのだろう。 娘を抱き返す男の瞳には薄らと涙が浮かんでいた。 「みんな聞いてくれ!」 村人達の注目が集まると、男は両手を声の大きさに負けないくらい大きく広げ事の経緯を伝え始めた。 「俺が山で山菜を摘んでいると、いきなり大木程ある巨大な妖怪が現れ襲ってきた! 必死に山道を走って逃げていたがつまずいてしまい、喰われそうになっていたところを間一髪、乙葉様に助けてもらったんだ! 乙葉様の放った矢が妖怪に刺さった瞬間、あの巨体が跡形もなく木っ端微塵に吹き飛んじまったのさっ!」 そう伝えるなり 『流石は乙葉様!』 『乙葉様は凄いお方だ!!』 など次々に言葉や歓声が上がり、拍手が沸き起これば、それらを聞きつけ更に村人達が集まり乙葉を称える。 「皆、出迎えありがとう。 さぁ、また仕事に戻ってくれ。」 鳴り止まない歓声の中、笑みを浮かべ凛々しい姿勢の乙葉の背後に光が差せばまるで女神の様で、村人達は改めて乙葉は別格な存在なのだと再確認すると、両手を合わせつつ解散していった。 「乙葉様、ありがとうございました。」 「乙葉様ありがとう!」 「皆を守るのが私の役目だからな。 ご飯でも食べてゆっくりするといい。」 最後まで残っていた親子は深々と頭を下げると仲良く手を繋ぎ、再度頭を下げると乙葉の前から去って行った。 「さて、私も帰って準備をするか……。」 視線の先で幸せそうに笑い合う親子。 何処か羨ましそうに眺める瞳をそっと閉じると、方向転換し自宅へと足を進めた。 ※ 「姉上様、晴大です。」 「入れ。」 「失礼します。」 障子がゆっくりと開き、現れたのは髪を後ろで小さく結んだ少し細身な少年。 名は晴大(せいだい)。 乙葉の四つ離れた弟で、とても穏やかで優しく礼儀正しい性格だ。 それを証明するかの様に、障子を閉めるなり軽く乙葉に会釈をし、その場に正座すると姿勢を正した。 「姉上様、ご用件とは?」 「お主は、これをどう思う……。」 机へ向いていた体を晴大へ向けると、砂で汚れて黒くなってしまった一枚の紙を広げてみせる。 . 絵:将義 双世 様 image=488746030.jpg
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