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「宣戦の書……ですか?」
「そう。どう思う?」
「……よくは分かりません。
でも、良くはない気がします。」
急な質問に答えようとするものの、どう表現すればいいか分からず、口ごもってしまい曖昧な返事となった。
「この字、達筆だと思わぬか?」
「達筆?」
思いもしなかった発言に晴大は首を傾げると、乙葉が持つ宣戦の書を覗き込んだ。
確かに言うとおり、書かれている字はとても美しく繊細さを感じた。
均等な感覚で配列され、止めや跳ねなど丁寧に書き込まれた文字。
文の意味さえ考えなければ、鬼が書いた字だなんて誰も信じないだろう。
「鬼の中にも達筆な者がいるとわな。」
乙葉は手紙に目線を落とし、ふと妖艶な笑みを浮かべる。
その笑みを前に、晴大は己の姉だと言うのに思わず恐怖を感じ身震いすると息を飲んだ。
「綺麗な字だが、この字には邪念が込められている……。」
「邪念?」
「この文に触れると清き者は、邪念の恐怖に心がやられ、悪き者が触れると邪念により力を増す。
晴大が感じ取ったのは邪念だ。」
”邪念“
聞き捨て出来ない単語に晴大は表情を険しくさせると、机に置かれた文を静かに睨んだ。
「文が国中にばらまかれて早一月。
この文に触れ、村周りの妖怪は凶暴化している。
村の外に妖怪が少ないこの村は、まだ安全な方だ。しかし、他の村はどうなっているか……。」
ふと沈黙が流れる。
その沈黙に晴大は嫌な予想が浮かび上がり、時間が経過すればする程、それは大きな不安へとなっていった。
「単刀直入に言う。
晴大、私は村を出てこの文をばらまいた鬼を退治する。」
迷いを感じさせない力強い眼差。
見据える先は何処か遠く、まるでまだ来ぬ未来を見つめているかのように思えた。
「お待ちください!姉上様!!
そのような危険な事、姉上様がなさらなくても他の者がきっとしてくれます!」
「声がした……。」
「声?」
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