宣戦の書

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「`鬼を倒せ´……そう聞こえた。」 「そんなっ!空耳だって可能性もッ!」 「そうかもな。」 ふと晴大に笑いかける。 自分でも分かっているのだ。 何て馬鹿げた事を言っているのだろうと。 それでも何故だか、宣戦の書なる文をばらまいた鬼を退治しないといけない、そんな使命感が心の奥底から沸々と沸き上がってくるのだ。 「空耳だろうが夢だろうが、私は行く。 行かねばならない、そんな気がするんだ。」 「……では、この村の人々はどうするのですか?」 姉を止める事は出来ないと判断した晴大は、心から納得できない思いから己の無力さを感じ、悔しさが込み上げるもそれを顔に出さないよう必死に耐えつつ、絞り出したような声で尋ねた。 すると乙葉は一旦視線を晴大から外し、自分の懐(ふところ)へ手を伸ばすと、ある物を晴大へ差し出した。 「それはっ、父上の形見……。」 差し出された物。 それは、立派な鞘に収まっている一本の小刀だった。 黒光する鞘には、赤色の瞳が輝く金の竜が巻き付いている飾りが施されており、ただ見ているだけでもその圧倒感に軽い気持ちでは触れる事は許されない、そう感じさせる程強い存在感を放つ小刀。 「これを使って晴大、お主が皆を守れ。」 「えっ?……。」 「この刀は父上から譲り受けた立派な刀だ。 それに、私の霊力を宿した。これなら悪き者から皆を守れる。」 「私には無理ですッ!」 そう断言すると、晴大は俯いてしまった。 「何故だ?」 「私は……姉上様のような霊力を持っていません。 それに、私は……。」 今までに感じた事ない姉からの期待。 果たしてその期待に自分は応える事ができるのだろうかと不安が過ぎり、考えれば考えるだけ声は次第に小さくなっていく。 「何を言っている!お主はそれでも男か!? もう十四歳の立派な大人だ。 それに、父上から学んだ武術があるであろう。」 「でもそれは、何年も前の事……。」 「それをお主は言われた通り守り、修行してきたでわないか。大丈夫、晴大なら必ず成し遂げると私は信じている。 さぁ、刀を受けとれ。」 `信じている´ その言葉が後押しとなり、意を決し差し出された刀をゆっくりと受け取った。 手に持った途端、予想外な刀の重さに思わず息を飲んだ。 .
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