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「日の出と共に私は村を出る。見送りは要らぬ。
村のみんなには、晴大から理由を伝えよ。」
「はい。姉上様……。」
晴大は刀を強く握り締めると、姉の思いを邪魔せぬようにと、溢れ出してしまいそうな感情を必死に押し殺した。
行かないでほしい。側にいてほしい。
もしかしたら、これが最愛の姉と最後の時間になるんじゃないかという恐怖を。
「用はこれだけだ。もう、下がってよい。」
晴大は深々と頭を下げ静かに立ち上がると、振り返る事なく部屋を出て行った。
ピシャッ──…
障子を閉めた音が、静まり返った部屋に響き渡る。
数秒後、乙葉は最愛の弟が後にした障子をただ黙って見つめた。
(村の事は任せたぞ……晴大……。)
※
日の出。
村の出入口には、弓と矢を持って村を見つめる乙葉の姿があった。
目を閉じ、息を大きく吸うと目を開く。
そして己の故郷へ背を向けると、一日の始まりを告げる朝日を浴びながらゆっくりと歩き出した――…
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