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──八年前──
人気のない森の中、並んで生えている五本の木に縄が一本づつ、枝から地面へと向かい結んであった。
その縄の先には薪が吊るしてあり、ブラブラと左右に揺れている。
その時!
ヒュンー…ドスッ!
ヒュンー…ドスッ!
ヒュンー…ドスッ!
ヒュンー…ドスッ!
ヒュンー…ドスッ!
揺れる五本の薪に、狂いもない間隔で矢が次々と突き刺さった。
矢が飛んできた方向には、一人の少女が背丈と不釣り合いな長い弓を持ち、いまだに揺れている薪を真剣な眼差しで見つめていた。
「姉上様!」
突然、少女より幼い男の子が現れ少女へと駆け寄った。
「晴大か。
どうした、修行は終わったのか?」
「もうとっくに終わってますよ。」
そう言うと少年は空を指差す。
見ると空は紅く染まっており、鳴き声を上げながら数羽の烏(カラス)が紅い空を横切った。
「もう夕暮れだったのか!?」
「余程、熱心に修行を行っていたのですね。
母上様と父上様が、家でお待ちですよ。」
姉の驚いている姿に、晴大は小さく笑いながらそう告げる。
「なら、早く帰らないといけないな。」
そう言うなり、二人は急ぎ足で歩き出した。
「今日は姉上様の十歳の誕生日でしたので、修行はお休みになられればよかったのでは?」
「そうだな。でも、今日の誕生日は特別でな。
そわそわしてならなかったのだ。」
期待に満ちる笑顔が、思わず溢れる。
「姉上様が待ちに待った日ですからね。」
「母上が私に巫女装束を下さる。
これで私も立派な巫女になれるんだ!」
そう笑顔で言うと、高まる期待に胸を膨らませ走り出した――…
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