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「レーチ」
「……アオ」
書類を抱え階段を下りて居る礼一に会い呼びとめる。
久々に呼ばれた気がした。
あの時、豹変した礼一を見た日以来、あまりしゃべらなくなったから。
それは、大地が四六時中、俺にまとわりついていたからで、礼一は大地が嫌いだと感じ取った。
「レーチ……」
それから、俺の臆病さから礼一に話なんて掛けられなかった。
「どうしたの?アオ」
「っ…レーチ……俺」
ごめんね。
そう言いたい。
抱きしめて、礼一に謝って、頭を撫でてもらいたい。背をさすってもらいたい。
甘えたい。
「――どうして無視するんだよ!!」
「ギャアギャアうるせぇな。サル」
その時、この幸せな時間を壊したのは鴇矢と大地。
俺がいま、最も嫌いな人達。
「あ?礼一まだこんな所に居たのか」
「鴇矢君、どうしたの」
壊される。
壊される。
「忘れてたのあってな」
「あ、そうなんだ」
俺と礼一の空間だったのに、俺と礼一の世界だったのに、今は俺が部外者みたいな感じだ。
なんで、なんでなんで……なんで。
「レーチ」
小さく名前を呼ぶ。
届かないような声で。
でも、礼一は礼一だった。
「アオ?呼んだ?」
優しく微笑んで笑顔を見せて、外れて居た目線を俺に合わせてくれる。
それが嬉しくて、嬉しくて、優越感があふれてくる。
「お前ら俺を無視するなっ!」
ハッとして気が付く。
大地がいた事に。
嫉妬で声が遮断されていた。
「あーうるせぇ。行くぞ。礼一、あお」
「なんで俺の名前呼ばない癖に、そいつの名前呼ぶんだよ!!」
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