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今のは礼一なのだろうか。
目の前で起きた事なのに、嘘のように聞こえ見えてくる。
穏やかな、皆に癒しをくれる雰囲気を持つ礼一が、声を荒げ肩で息をして大地を睨みつけて居る。
「れー…ち…」
無意識で呟いた俺の言葉。
それに、礼一はハッとした表情を見せ、口元を押さえ自分の行動にショックを受けた顔をした。
そして、泣きそうな表情を見せ教室から、俺らを押しのけ出ていく。
「レーチッ」
「行くなよ!蒼生!!あんな酷い奴の所になんて」
追いかけようとした。
けれど、大地に強い力で腕を掴まれ足止めを食う。
俺にとって大事なのは礼一で、 でも、これで追いかけたら大地は付いてくる。絶対。
そして、礼一に迷惑をかけてしまう。
それから何より怖くて、大地を振り切って行けなかったのは、礼一があの冷たい声で俺に言葉を発するのではないかと言う事。
「大地~こんな所に居たの?」
「大地、早く食堂へ行きましょう?」
世未と薫までやってきて、一段と教室中、廊下中が騒ぎ出す。
それを気にしていないように、2人に近づく大地。
「聞いてくれよ、さっき酷い奴がいたんだぜ!蒼生に無理やり喋らせようとしたり、俺に怒鳴りつけて来たんだ」
「え、誰それ~?」
「大地に失礼な事をする輩は誰ですか?」
「蒼生がさっき"レーチ"って言ってたな?」
「「え…」」
2人の視線が俺に集まる。
でも、俺は唇を噛みしめたまま俯いた。
大地が礼一の俺だけのあだ名を言うのが嫌だ。
でも、そんな我儘を言う資格なんてない。
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