序章「制御不能な希望」

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「何だ、やんのか!?」 若い将軍が囚人達の動きを見てすかさず帯剣している剣の柄に手を掛ける。 ミーティアの結界がそう簡単に破れる訳はないが万が一破られた時の備えとして将軍が配備されているのだ。 しかし、彼の剣は抜かれる事はなかった。 突進して来た囚人達の取った行動は攻撃ではなく 懇願だった。 「お、お願いです! 俺達をここから出して下さい!」 「まだ・・・・・・まだ死にたくないんです! もう悪い事はしませんから!」 「お願いです! どうか、どうか慈悲を・・・・・・!」 殺人、強盗、放火 彼らはかつてそんな大罪を犯した者達である。 そんな凶悪な犯罪者が涙を流し、両手両膝、遂には頭まで地面につき必死に懇願している。 「はっ、よく言うぜ、自分達は無抵抗な人間を殺しまくったくせによ!」 若い将軍の言い分通り、彼らは罪のない人間を殺し、なぶった極悪人である。 それでも彼らが泣き叫び懇願する様にアレクサンドルは心が痛くなる。 「控えなさい! 陛下の御前であります! 直ちにこの場から失せなさい! さもなくば・・・・・・」 シンシアが一人の囚人を指差すそれと同時に 「ぐ、ぐぁぁぁ!」 指差された囚人が首を抑えもがき始める。 ミーティアが小さく悲鳴をあげる。 開拓囚人に嵌められている首輪に魔力を込める事でその場で刑を執行する事も出来るのだ。 「今ここで死にますよ」 シンシアの口調には迷いや慈悲などという感情は一切ない。 だがーー 「あぁ頼む! 生きたまま魔物に餌やなぶりものにされるぐらいなら、ここで殺された方がいい!」 「なっ!?」 予想外の反応にシンシアが言葉に詰まる。 「俺もだ! 頼む! 死んだように生きるぐらいなら今死んだ方がいい!」 「俺もだ!」 アレクサンドルはギリッと下唇を噛み締めた。 発展に必要とはいえ 人を殺した極悪人とはいえ 生きている人間が死を望む現実がそこにはあった。 自分はどうしてここにいるんだろう そう自問自答せずにはいられなくなる。 (そして、そんな所に何故あいつを・・・・・・) 「なら、望み通りにしてあげます!!」 思考の世界に入りかけたアレクサンドルを無慈悲な声が引き戻す。 「ぐぁぁぁ!」 「まーー」 「待って下さい!」 アレクサンドルの声に幼き魔術師の声が被さる。 しかし、少女のそれは制止ではなく 「何か、聞こえませんか・・・・・・?」 警告だった。
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