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「ごふっ」
若い将軍の口から鮮血が吹き出る。
返り血を浴びながら0496はトドメを刺そうと再び右手を上げる。
「止めなさい! 0496!!」
シンシアが叫ぶ。
「止めなければ首輪に魔力をーー」
シンシアは途中で言葉を切った。
いや、あまりの出来事に切らざるを得なかった。
何故なら
「え・・・・・・?」
自分が遥か上空に居たからだ。
ロストワールドの重力が彼女に理解の時間を与えてくれる筈もなく
「いやぁぁぁぁ!」
落下を始めた。
混乱する頭の中、かすかに
「じゃあテメェから死ね」
そんな言葉を聞いた気がする。
地上ではシンシアを空高く放った0496が再び若い将軍に向き直っていた。
先のダメージから体は回復しておらず動く事もままならない。
だから自身の返り血を浴びながら残虐な笑みを浮かべゆっくりと近付いてくる0496を眺める事しか出来なかった。
その腕(かいな)が拳の形を作り自分の顔に落ちてくるのに為す術もない。
「止めろ! ヘイム!!」
だから王女の叫びで拳の軌道が変わった事に奇跡を感じた。
ドゴン
軌道を変えた拳は地面に叩きつけられ若い将軍の顔の隣にクレーターを作る。
「ぃゃぁぁああ」
ようやく落下してきたシンシアをミーティアが慌てて魔法の網を出して受け止める。
(とりあえず、死者は出なかったか)
アレクサンドルはほっと胸を撫で下ろす。
そして驚くべき事に自身の片膝を地面に着け頭を下げた。
ミーティアとシンシアが驚いて息を呑むのが伝わってきた。
だが、今はそんな事はどうでもいい。
「まずは部下の非礼を詫びさせてくれ。すまなかった」
ギリッ
倒れてる若い将軍が歯軋りをしているのが聞こえた気がする。
ゆっくりとアレクサンドルの方を向いた0496が少し居心地の悪そうな顔をしたのをミーティアは不思議そうに見ていた。
アレクサンドルは頭を下げたまま続ける。
「今、この国は滅亡の危機に晒されている。どうか、お前の力を貸してくれないか? オーガ・ヘイムダル」
開拓囚人0496
オーガ・ヘイムダル
彼は舌打ちをした後に
「らしくねぇ真似しやがって・・・・・・」
小さく何か呟いた。
その言葉はアレクサンドルの耳に届く前に風がロストワールドの何処かに運んでしまった。
その後アレクサンドル一行は人数を一人増やし再び魔法の扉をくぐった。
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