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いつも通り玄関の鍵を開けて、疲れのせいでいつもより少し重く感じる扉を開いて中に入る。扉が閉まる音を背中に聞きながら、ふと足元を見れば見慣れた靴が行儀良く揃えられていた。因みに俺のものではない。女物だし。持ち主はわかりきっているので、特に警戒することも無く玄関を去る。
そこそこお高いマンションの一室が俺の家で、広さも部屋数もそれなりにある。
リビングの戸を横に滑らせれば、揺れる金髪と、そこから覗く蒼の瞳。足元には空き缶が何本か転がっていて、部屋の中に居る男の頬はうっすらと上気していた。
「…はぁ……。」
「……おかえり。」
思わず溜息を吐いた俺を一瞥して、しれっとそう言う彼にもう一度息を吐く。
「何を飄々と……家主が居ない間に勝手に酒盛りすんなって、いつも言ってるだろう、冬樹。」
いつもながら身勝手な恋人は、俺の言葉を華麗にスルーして、既に意識をテレビに戻している。
三度目の溜息を吐き出して、空の缶を拾い上げた。
こいつが家に、連絡無しで上がり込んでいる時は、機嫌が極端に良いか、極端に悪いかのどちらかだ。他は連絡を寄越す。そして、飲んでいる酒の値段が機嫌に比例するのはデフォルトだ。
俺は拾った缶を見遣る。缶ビールと缶チューハイ……言わずもがな、機嫌なんざ最悪だとわかる。機嫌が本当に良いときなんて(滅多に無いが)、恐ろしい値段のワインを持ってきたこともある。
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