Sと病

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 ――、一ヶ月程前に付き合い始めたこの恋人は、独占欲が人一倍…どころではなかった。  男同士という引け目と、もともとの性分もあってか、常に、不安で堪らないといった表情をしていた。……まあ、基本的にポーカーフェイスなので、気付くのは俺くらいだっただろうけど。  そんなわけで、当初はといえば、素晴らしいまでの嫉妬や束縛を頂戴したのだ。  女と話せば綺麗な手口で違和感無く邪魔をされ。男と話せば痛い視線と家に帰ってからの文句を貰い。――同僚や同じ部署の人間とは否応なし関係を持つものなのだし、本人もそれはわかっているのだろう、そんな行動をした後には、必ずしおらしくなって、「ごめん」と言ってくる。これが可愛い。  ……いや、本当に、恋は盲目とはよく言ったもので、今までならウザいと感じた筈の束縛でさえ、愛しく思えるのだから、俺も大概末期である。  それでもなんとか、俺がどれだけ冬樹を好きかと言い聞かせ、周りに気付かれて別れたくはないから手を出したりするなと言いくるめ、あとは優しく、キスやら何やら。そんな感じで宥めすかした結果、案外すぐに束縛は緩んだ。  俺にしては珍しく必死だったなぁ、と今になって思う。俺はやっぱり、自分で思っているよりもこの、目の前のやたら綺麗な顔をした男が好きらしい。  しかも結局のところ、同じことをされれば、行動はしないまでも、かなり盛大に腹は立つのだから、要するに俺たちは似た者同士なんだろう。 .
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