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普段滅多に見せないような笑顔で玄関先に立っていた冬樹に、一瞬動きが止まった。
クリスマスだからと、家に居るのは知っていた。が、玄関入ってすぐそこに居たことなんて今まで無かったから、驚いたんだ。
そんなわけで、俺が、表情には出さないまでもうろたえているのを知ってか知らずか、冬樹は笑顔のまま口を開いた。
「とりあえず、戸、閉めて。寒い。」
声音に不機嫌は見出せない。とりあえず、確かに寒いし、逆らう理由も無いので、俺が動きを止めたせいで開いたままだった戸を閉めて、冬樹に振り返った。
――瞬間。
胸ぐらを掴まれ、まったく予想していなかったせいで勢いのまま戸に押し付けられた。ダン、という音と共に襲った弱い痛みと鈍い衝撃に、軽く顔を顰めつつ、冬樹を見やる。
細っこい腕は、少し抵抗すれば簡単に振りほどけるだろう。身構えていないと、こんなに細い腕にすら負けることはあるんだなあ、などと我ながら心底どうでもいいことを考えながら、このままじっとしていたって何にもならないし、と多少の息苦しさに目を瞑って口を開く。
「どうした?冬樹、」
今回ばかりは、怒らせるようなことをした覚えが無い。仕事を速く終わらせたいが為に、雑談どころか、上司との必要最低限の会話と同僚への挨拶くらいにしか口を使っていないので、嫉妬では(多分)ない。連絡無しで遅くなったわけでもない、ってか遅くなってない。……いままでにこいつを怒らせたようなことは、してない、よな。
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