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―――その時
「きょーうーがっ」
背中ごしから、美桜の明るい声がした。
狂牙は振り返らず、手で素っ気なく、しっしと追い払う。
「早く洞窟に戻れ」
「やだ」
「おい…」
狂牙は仏頂面で美桜を振り返ったが、思わず目を見開いた。
美桜が、狂牙に抱きついてきたのだ。
狂牙の首筋に腕を回し、その肩に顔を預ける美桜。
その着物からうなじが覗き、狂牙は危うく間違いを犯してしまいそうになった。
「狂牙…ずっと傍にいて…。何処にも行かないで…」
訴えるように、美桜が呟く。
「……あぁ」
狂牙がそう頷くと、美桜が艶やかに微笑んだ。
狂牙は微笑み返すも、胸の中では大きな不安が渦巻いていた。
いつか、俺は…
この笑顔を、壊してしまうのではないかと。
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