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狂牙は洞窟の外を見遣ると、立ち上がった。
「時だ」
洞窟の外では、闇に溶ける程の沢山の烏(カラス)が、狂牙の出を待っていた。
狂牙が洞窟を出でると、烏が舞い、狂牙を取り囲む。
「烏豹(イヒョウ)」
狂牙がそう言うと、烏豹と呼ばれた烏は、いつしか一羽の大きな烏に変化していた。
烏豹は従順に、狂牙の目の前に舞い降りた。
「狂牙様。今日はどちらに?」
烏豹は容姿に似合わぬ高い声で、狂牙に尋ねる。
狂牙はにやりと笑った。
「東へ行く。烏豹、ついてこい」
「承りました」
次の瞬間、そこにはもう何もなく、ただ一本の黒い羽が落ちていただけだった。
「……狂牙……」
美桜は、洞窟の中からその様子を見ていた。
ただ美桜は、狂牙が夜な夜な何をしているのか、知らなかった。
妖怪は人間を食さなければ生きていけないことも。
狂牙が夜な夜な、“食事”していることも。
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