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その女の娘の後ろから、同じ歳くらいの男がニコニコと笑いながら付いて来る。
「ちょっと、カッペっ!何でついて来んのよっ」
女の娘は歩きながらクルッと振り返ると、後ろからついて来る男に言葉を放つ。
「えぇぇ、良いじゃぁん。俺達、友達なんだからさっ」
男は笑顔でそう言うと、スタスタッと女の娘の左隣りに並ぶ。
女の娘が隣りに並んだ男を見た瞬間、バイクに腰掛けタバコを吹かしながらその光景を何気に見ていた俺に、一瞬チラッと視線を向ける。
「ちょっとぉ、隣りに並ばないでよ。誤解されんじゃんっ」
女の娘は少し焦ったようにそう言って、男の体をポンッと押して距離を離した。
俺は微かにフッと微笑むとスッと二人から視線を外し、タバコの煙りをフゥゥッと吐き出しながら彫文游藝所の在る二階を見上げる。
その時、彫文游藝所入った建物の外階段をカンカンカンッと上がって行く音がする。
俺はその音にスッと外階段の方に視線を流す。
外階段にいたのは、さっきの女の娘だった。
「あのっ……」
女の娘がクルッと振り返り口を開く。
その視線は、俺の方に向けられていた。
んっ、俺かっ?……
外階段の下に居る男が、女の娘の視線の先にパッと振り返る。
「もしかして、ここのお客さんですかっ?」
女の娘は俺に視線を向け、彫文游藝所の文字が入った二階のドアを指差して言った。
なんだっ……こいつ、ここに関係あんのかっ……
「いやっ、別にお客さんって訳じゃねぇけど、ちょっと気になってな……」
俺は少々戸惑いながら言葉を返す。
「気になったのなら、中に入って彫師の人達と話すのもありですよっ。文のやつ居るかなぁ……まっ、あいつ居なくても秀さん達居るしっ。入ってって下さいっ」
女の娘はそう言って、俺にニコッと笑顔を見せる。
その娘の笑顔を見た瞬間、心の奥底がチクンとほんの小さく疼く。
フッ……
俺はそんな自分が可笑しくなり、視線を伏せ口元を緩める。
「んじゃあ、入ってみっか……」
スッと視線を上げ女の娘を見た俺はそう言ってニッと笑った。
女の娘は、なぜか慌てたようにパッと俺から視線を外し俯く。
俺はスタッとバイクから降りると、女の娘と男が居る外階段に向かって一歩を踏み出した。
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