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ーーーーー八年後ーーーー
家から出た俺は、作業場に行くためにホンタの名車‘スーパーカボ’を道路に引き出し、エンジンをかけ暖気させる。
その時、俺をジッと見つめる視線に気づく。
俺は視線を感じる右に振り返り、視線をゆっくりと下げる。
「とちゃんっ!!」
朝からふくれっ面した男の子が、俺を見上げて声を上げる。
紺色の服に黄色い帽子を被って俺を見つめる男の子は、空(そら)5歳。
俺の息子だ。
「どうした、空ぁ。朝からなんで、そんな膨れてんだぁ」
俺はニッと笑って声をかける。
「とちゃんだけ、バイクに乗るのずるいぞっ!空はいつになったら、乗せてくれんだっ?」
ほっぺたを膨らましそう言った空は、今にも泣き出しそうに涙を目に溜めている。
どうやら、俺だけバイクに乗って自分が乗れないのが嫌らしい。
俺はカボを暖気させたまま空に近づくと、空の前にしゃがみ込む。
「だって、空まだ乗れねぇし、危ねぇだろぉぉ。大っきくなったら乗せてやんよっ」
俺は右手を上げ、空の頭を撫でながら言った。
「ほんとっ?じゃあ、空が大きくなったら。あっちの大っきいバイクに乗っていいっ?」
空が目を輝かせ聞いてくる。
なるほどぉぉ。こいつの目当てはあっちか……
空は、俺が若い頃から乗ってるバイクがお気に入りだった。
「あっちかぁ……あっちは、とちゃんの大事なバイクだかんなぁ」
俺はわざとそう言った。
空がシュンッとして俯く。
フッ……
「あっ、そうだっ。じゃあ、空が十八歳になったら、とちゃんの大事なあのバイクやるよっ」
その言葉にバッと顔を上げ目をキラキラさせている空を見て、俺はニカッと笑う。
「ほんとだなっ。とちゃん、約束だぞっ」
空は疑いの目で俺を見つめ念を押す。
こいつは……ったく……
俺はガクッと肩を落とす。
「ああ、マジだよっ」
俺は、ハハハッと笑いそう言って空の頭をワシャワシャッと撫でる。
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