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「普通の」という表現程、的を射ていないものはない。
普通とは何だと訊かれて、明確な返答が出来る者はいない。「普通は普通でしょ?」ではまず答えにすらなっていない。
人間は誰しも異常であり、その異常と異常の間を苦心して埋めて生きている。普通という言葉は所詮幻想であり、普通の人間などいない。
しかし、曽根川ひかるは断言したい。
自分はどこにでもいる普通の高校生だった、のだと。
こんなことを言う奴がまず普通であるはずはない。
普通にイケメンで、普通に異性に好かれ、普通に特殊能力の中でも特殊な能力があって、普通に人間が出来ていて、挙げ句の果てには普通に異世界に転生し始めるのだ。
ひかるも自分の考えの愚かさは承知している。だから「だった」と過去形なのだ。昔を懐かしむ時、「あァ、自分は普通だったなァ」くらいに思っても罰は当たらないだろう。
現在のひかるはとても普通とは呼べない状況に追い込まれている。異常である。とんでもなく異常である。
まず、昨日の夜のことを思い返したい。普通に学校の課題をやって、普通に眠くなって、普通に普通のベッドで眠った。
それで、先程目覚めると全く見知らぬ部屋にいた。
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