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厄介な動きをしていた衛カンや師簒(シサン)、杜預(トヨ)達もまとめて捕えておいた。
捕えた者達を殺すべきだと再三姜維は進言してきたが、そこまでする必要はない。
彼らはトウ艾擁護と巴蜀における地位の安寧のために動いているだけで、状況が変われば靡いてくる強かさがある。
都を落としてなお靡かなければ、そこで殺せば済む話なのだ。
鍾会が都にいた頃にはすでにまともな大夫がいなくなって、人手が足りないくらいだった。
巴蜀に閉じ込めた有能な士官達をみすみす殺すはずがない。
使える者はなんでも使うのが鍾会の信条だった。
彼女との約束では、牙門騎督以上の者を皆殺しにするはずだった。
ふっと脳裏を横切る娘の姿に、何度も首を振った。
たとえ彼女との約束だとしても、目的のために必要なことなのだ。
自分のためだけでなく、蜀漢と姜維のためでもあるから、仕方のないことなのだと鍾会は思った。
不安だが、先を見据えてやるしかない。
心のなかで何度も何度も謝った。
しかしながら、ここまで職務に従事できているのは久々だった。
もともと真面目で仕事はすぐに終わらせる性格だったのに、巴蜀に入ってからはやりきれないことが多かった。
仕事に傾倒していることに、清々しさすら感じているのだ。
前の自分は仕事以外に心を奪われていたからなのだろうと思った。
すぐ、漆黒の布を纏った白知秋を思い出した。
彼女とはもう随分会っていない。
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