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変わった理由。
それはもうその墨染めの頭巾にある。
浅葱色の布はどこにいったのだろう。
二人の間で交わされた、自分の知らない契り。
見せつけられて、胸が苦しくなる。
自分のなにが足りなかったのだろうか。
若くて権力もあって能力もある。
たとえ最初は互いに利することだったからだとしても、何度も夜を交えた仲だった。
離れようと思っても離れられない関係だったはずだ。
しかし、黒い頭巾を見ていると、そう思っていたのは自分だけように思えて、惨めになる。
どうしようもないやるせなさに襲われる。
白知秋は去ってしまったのだろうか。
そうでなければ姜維の頭巾と布を交換する必要はないはずだ。
では、自分に黙って行ってしまったのか。
考えるたび、形容しがたい感情が湧きあがってきた。
寂しくて、悔しくて、辛くて、悲しくて。
でも、どこかで、ほっとしている。
姜維を下がらせようと思った。
その時、目が合った。
瞳の奥が光っていた。
まばゆい光などではなく、ただ静かに、星のまたたきのように光っていた。
それが揺らいだのに気づいて、ああ、泣いているんだなと思った。
滴が溢れることはなく、音が聞こえることもなく、陽炎に呑まれて、朱(アカ)い世界に消えてゆく。
そんな光、弱々しい光だった。
その時、やっぱり白知秋はもういないんだと、鍾会は理解した。
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