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蜀軍は出動の準備を終え、成都の門外で待機している。
姜維がいない間の音頭は張翼(チョウヨク)が執っていた。
姜維が進発の号を発すればすぐにでも北進できるようになっている。
成都の政庁に、姜維は五名の麾下(キカ)とともに参上した。
鍾会から剣と鎧、大将の印綬(インジュ)、旗を手渡されることになっていたのだ。
もし鍾会を始末するとなれば、そこが最後だろう。
この機を逃すと、次は都で落ち合う時になってしまう。
都を占領した頃にはもう鍾会は地盤を整えているだろうし、姜維ひとりではやっていけない体制が敷かれているに違いない。
鍾会はもともと洛陽(ラクヨウ)周辺で力を蓄えてきた人間だった。
田舎者で敵将の姜維よりずっと味方する者は多い。
殺すなら今日、ここで。
何度も悩んできた。
いずれ必ず鍾会はこの手で葬り去る。
外で待つ張翼と蜀軍には、鍾会を殺し、ただちに蜀漢の再興を宣言する場合も想定させていたので、合図によっては北に向けるべき刃を城内の魏軍に向けさせることも可能だった。
ただそれが今なのかどうか、迷っている。
鍾会を殺さずに手を取り合った方が、蜀漢が中華を統一する夢が近くなる。
鍾会を殺してしまうとまた北伐に時間をとられて、自分が生きている間に洛陽を臨むことができないかもしれない。
洛陽を落としてから殺した方が、すんなりいくのではないか。
迷いに迷った。
娘とも言える女子が苦しんでいる様を思い返して、拳が震えた。
それでも決め切れなかった。
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