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麾下の者は自分よりひとつ下の世代を迎えている。 姜維や白然(ハクゼン)と同じ世代の者はとっくに死ぬか前線を離れて田舎に帰って、ここにいない。 この前、さらにひとつ下の白知秋と同じ世代が数十人参入した。 活気に満ち溢れた若人達である。 その青さと若々しさにあてられて、思わずたじろいだ。 姜維はもう六十の坂を越えて久しかった。 新しい時代を迎えようとしている。 それは痛いほどにわかっていた。 自分が老獪(ロウカイ)に過ぎないということも、世代交代を認めなければいけないということも。 しかし廖化(リョウカ)が言ったように、若人は父や老人の背中を見て育つものである。 その灯として、自分は奮い立たなければならない。 模範として、などと偉そうなことを言うつもりはない。 数十年後まで、姜維伯約(ハクヤク)が存在したということを覚えていてもらうために、戦うのである。 鍾会に遅れはとらない。 毅然とした態度で旗を受け取り、北伐する。 それを見て育って行く者達がいる。 諸葛亮(ショカツリョウ)のようなことはできずとも、胸に秘めた灯を受け継がせることなら、武骨な自分でもできる。 姜維の背は真っ直ぐと伸びていた。 政庁を進んで、鍾会のもとへ向かった。 街を展望する開けた場所に、鍾会は十人近い親衛とともに佇んでいた。 その手には木を削ってつくられた杖がある。 空は眩しいほどに晴れ渡っている。 鍾会は背を向けて、親衛達は面を下げ、道を模(カタド)るようにして両端に寄っていた。 「鍾将軍。姜伯約、ただいま参上いたしました」 拝礼し、姜維は親衛がつくる道を歩いて行く。 華やかさはまるでない。 ただ荘厳な雰囲気だけが場を埋め尽くしている。 どんな難敵にも恐れを抱かない麾下達が、息を呑んでいるのがわかった。
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