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眼下では鍾会軍の兵と叛乱軍の兵が交戦している。 政庁の門が押し破られるのも時間の問題か。 張翼と目が合った。 そして、張翼の馬がこちらに向かって駆けてくる。 よし、気づいた。 これで叛乱軍を鎮圧できる。 蜀漢の悲願を果たすことができる。 そう思った瞬間、張翼が不自然に揺れて、馬上からずるりと落ちた。 矢。 射られた。 声が出なかった。 ここまできて。 まだだ。 戦える。 自分は生きている。 吼えた。 剣を握り締め、一頭の獣のごとく腹の底から雄叫びをあげた。 殺してなるものか。 悲願成就まであと一歩のところまできたのだ。 「将軍」 耳をつんざく喊声が沸き起こるなかで、消え入りそうな鍾会の呟きがなぜか耳に入った。 首だけでそちらを見た。 見知らぬ兵装の男が数人、鍾会に向かって剣を振りかぶっていた。 奥に見えたのは、数挺の梯子(ハシゴ)。 「ありがとう。そして、すまなかったね」 二つになって崩れ落ちる姿が見えた。 扉が弾かれるように開き、兵がなだれ込んでくる。 腥風(セイフウ)が吹く。 空は清々しいほどに、澄み渡っていた。
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