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国家のために命を懸ける男達がいる。
あたたかい部屋で書類に目を通しているだけの自分と違って、暑さに唸り、寒さに凍え、いつ死ぬかもわからない環境で懸命に戦ってきた男達の存在を、彼はよく知らなかった。
彼らと触れ合い、考えるのは、自分はなにをしてきたのか、ということ。
そして、これからなにができるのか、ということだった。
生きる世界が違う。
ほんとうにそうなのだろうか。
目の前の老人と自分の違いは、いったいなんだ。
探しても、それは見えてこなかった。
違いなんてないのかもしれないと、董厥は思っていた。
「廖化殿。私は、自分が恥ずかしいよ」
宦官(カンガン)と繋がってきた。
それは国家のためを想っての行動だった。
しかし、それではいけないと気づいていた。
気づきながら、けっきょくなにもできなかった。
それが惨めでならなかった。
トウ艾(-ガイ)や鍾会の下で政務をこなしている間、ずっとその思いに苦しんできた。
周りがどう言おうと、消しきれないくすんだ思いが董厥のなかにはあった。
「不思議なことを申される。それは、なぜです」
廖化はほほ笑んだ。
途端に自分が小さい存在に思えて、肩を狭めた。
「宦官と癒着したことがありました。樊建(ハンケン)殿と違って、私は手を汚してきました。それが恥ずかしい」
「そうですか。わしにはよくわかりません。悪いことなのですかな」
「悪いことです。宦官は陛下を惑わせることばかり進言し、朝廷を荒らすばかりでなく軍事や民事にも口を出してきました。彼らの手によって不当に裁かれた者の数は、数え切れません」
「なるほど。それで、その悪者と繋がっていた董厥殿も、悪者なのですか」
言われて、下唇を噛みしめた。血の味が広がる。
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