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「他の者達は、そうみなすことでしょう」
「あなた自身は」
「どういう意味です」
「あなた自身は、悪者をやっていた自覚がありますかな」
また、唇を噛む。
目を閉じて考えてみた。
それから大きく首を振る。
「私は宦官をなんとかしたかった。宦官を外から排除することが不可能だと悟って、内から変えていくしかないと思ったのです。悪者と罵られようと、私は国家と陛下のために尽力してきました」
そこに嘘やいつわりはない。
本音をさらけ出していた。
劉禅の傍にいる政務官達には聞こえていないだろう。
外の喧騒は大きさを増すばかりだった。
廖化は黙っていた。
目を見つめてくる。
呼吸の音。
かすかに息を吸う音が響く。
時を刻んでいた。
不意に、にこりと笑った。
笑ったのはどちらからだろうか。
廖化が笑ったと思った時にはすでに自分の口角もつり上がっていた。
「それで良いではありませんか。恥じることはありません。むしろ、そんなことで己を恥じないでください、董厥殿」
優しい声だった。
だからこそ董厥は不安になる。
今まで自分がやってきた行いに意味があったのかどうかという、誰にも打ち明けられなかった不安だった。
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