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「教えてくだされ、廖化殿。私はこの国のために、なにかできましたか。役目を果たせましたか」 「あなたにはあなたしかできないことがある。それを、しっかりやり遂げてきた。これからも、やり遂げることでしょう。そんな顔をしないでください。わしは董厥殿を尊敬しておるのですよ。あなたにはわしら軍人にはない、力がありました」 「力、ですか」 「多くの人々に幸福と安寧を与える力。それが、わしには眩しくて仕方ないのです。人を殺すことでしか人を守れないわしらにはない、あなただけの力です」 「でも、殺さなければならない時に、殺すこともできない弱い人間です」 「その時はわしらが殺します。あなたはわしらが人を殺さなくて済むような世界をつくる。そうやって今まで手を取り合ってきたでしょう。これからも、それは変わりません」 この老人は、その目で国の始まりと終わりを見つめてきた。 董厥よりもずっと身近に、人々の志と想いに触れてきたのだろう。 言葉にはこれ以上ない優しさと寂しさが込められていた。 董厥は目のところに手をあて、嗚咽(オエツ)を漏らす。 炎が二人の影を燃やしていた。 「成都の火は燃え続けます。そして、漢が滅びても、この地で暮らす人々の営みは終わることなく続きます。あなたはその営みを続けさせることができる力があります。あなたがいなければ、誰もこの地で生きていくことはできません」 もう、我慢できなかった。 土汚れた袍(ホウ)に顔を埋める。 「だから、生きて、戦ってください。血生臭い戦場ではなく、蜀の人民とともに、新しい時代を生き抜くのです」 その言葉で、董厥は声をあげて泣く。 力の限り、声が潰れるまで、泣き続けた。
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