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成都(セイト)が燃えている。
抱いた印象は、それだった。
街のあちこちから火の手があがっていて、戦をしているような気配があった。
陣太鼓の音が聞こえて、なんとか成都が望める場所まで移動した。
争乱が始まった日から三日経った今でも、その血生臭い腥風(セイフウ)は止みそうになかった。
夕焼けを生み出そうとしている。
成都の炎を映し出しているのかな、と思った。
白知秋(ハクチシュウ)は茫洋(ボウヨウ)とした目をして、佇んでいた。
蜀(ショク)軍は北進するどころか成都城内に侵入し、交戦したという。
その情報を持ってきたのは、すでに彼女の手下ではない黒(コク)だった。
細い目をさらに細めて、黒は成都を眺めていた。
いまだに成都は動乱のなかにある。
下手を打てば数ヶ月ほど、この動乱は続くかもしれないと黒は語気を落として語った。
激しい戦いが三日続いている。
一年続くと言われても自分は信じるだろう。
動乱のなかで姜維(キョウイ)と鍾会(ショウカイ)、張翼(チョウヨク)が殺されたのを確認したという。
もっと大勢の将校や官僚が死んでいるだろうが、まだ動乱の最中なので詳しく確認できていない。
黒の同僚も何人か巻き込まれ、殺された。
丘建(キュウケン)の提案を皮きりに、悲劇ははじまった。
丘建が進言したのは、幽閉されている将校や官僚の従卒をそれぞれひとりずつ施設に入れ、持ち込んだ食糧を配給させる、というものであった。
鍾会は丘建の提案が己の思惑に沿っていたので許可し、丘建自身もそれにはまったく謀略の意図はなかった。
彼はただかつての上司であった胡烈(コレツ)が飢えに苦しむのを見ていられなかっただけだった。
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