入学式

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どれくらい走っただろうか。 気づくと近くの公園に来ていた。 腕時計に付いたスイッチを押して、ライトを点ける。 初めてライトの機能が役に立った。 時刻は午後8時になろうとしている。 辺りは真っ暗で、遠くに街灯が間隔を空けて並んでいる。 和真は水飲み場で顔を洗い、冷静になるためにベンチに腰掛けた。 もう1度父の話を反芻してみる。 和真のお母さん景子は今もどこかで生きていること。 当時一緒に遊んでいた女の子は実の妹だったということ。 お母さんがいなくなってから女の子も家に来なくなった。 ということは、2人でどこかへ行ったのだろうか。 幼稚園に通っていた頃の記憶など、ほとんど曖昧で覚えていない。 でも冷静に考えれば父の話は本当だろう。 女の子は毎日家にいたし、ご飯も3食しっかり摂っていた気がする。 今までどうして何とも思わなかったのだろう。 父にお母さんは死んだと言われて、ショックを受けていたからだろうか。 中学生になったばかりの和真には難しすぎる話だった。 でもどうして父は嘘などついたのだろうか。 父の嘘に怒りを覚えるが、それ以上に母に対しての怒りの方が大きかった。 4月と言えど、まだ夜は寒い。 冷たい風が頬にあたる。 上着を持たず家を出たので、戻ることにした。 帰る道中に母と妹のことを自分なりに考えた。 母が今どこで何をしているのかは知らないが、少しずつ調べようと思う。 妹は何歳なのだろうか。 たぶん、1歳か2歳年下だろう。 名前は何というのだろうか。 あれだけ怒っていたのに、結局2人のことを気にしていた。 家に帰ったら父に謝ろう。 自然に小走りになっていた。
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