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入学式
例年よりも寒くなるとニュースなどで騒がれていた年明けの冬だったが、いつしか冬は終わり、気づけば春が訪れていた。
それを象徴するかのようにたくさんの桜の花びらが爽やかな風に運ばれて、学校へ向かう生徒や保護者の周りをひらひらと舞っている。
僕は今堤防の分岐点に立っている。
この堤防は桜の木が立ち並ぶ名所だ。
毎年地元の人々を含め多くの観光客が訪れる。
たぶん桜の木々で形作られたトンネルが人気の一つだろう。
左手には傾斜の緩い坂があり、その奥には今日からお世話になる中学校が見える。
続いて僕は右手にかかる橋へと目を移す。
橋の下は川が流れていて、堤防との間には大きな緑央公園が広がっている。
遊具などはほとんどないが、自然豊かな公園だ。
橋を渡って登校している生徒たちも何人かいる。
その中に祥浩がいないか探すが見つからない。
一体いつになったら来るのだろうか。
腕時計を見ると約束の時間からすでに20分以上経っている。
この腕時計は先日数ヵ月分のお小遣いを使って買ったものだ。
中学生になる自分へのご褒美でかなり奮発してしまったが、僕の誕生月と同じ四の時刻の部分だけが赤く装飾されていたのでとても気に入っていた。
「わりー、和真」
祥浩が橋の途中から全速力でやって来る。
ずっと走って来たのだろうか、息が切れていた。
「すまん、寝坊しちゃってさ」
「そんなことだろうと思ったよ」
ほどよく髪が茶色に染まった彼が大野祥浩(よしひろ)。
小学生になる前から仲良くしている、いわゆる腐れ縁というものだ。
身長が中学生のわりには高いだろうし、頭もいい。
おまけに運動まで出来る。
いつもなら格好良く決めている茶髪が今日は寝癖でくしゃくしゃになっている。
周りを見渡すとさっきの生徒たちが正門の近くにいるのがうっすら見える。
「僕たちも急ごう」
祥浩が返事をするやいなや、僕たちは坂を下り正門を目指して走り出す。
「俺たちも今日から中学生だな」
「そうだね、中学でもよろしく」
「当たり前だろ、同じクラスだといいな」
祥浩は走りながら持参したワックスで髪をセットしている。
相変わらず彼は器用だ。
鏡はいらないのだろうか。
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