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和真たちも自分の席を探して座る。
開始までまだ時間があるようだ。
周りを見ると、隣同士で談話をしていたり、後ろの保護者席に座る親を探したりする生徒もいる。
和真は後者の子が羨ましかった。
彼は小学校に入学する前に母親を亡くし、父親一人に育ててもらっていた。
今日もきっと仕事だろう。
父は出席したいと言っていたが、家庭の状況を考えると欠席せざるを得なかった。
祥浩の親も今日は来ない。
父親は警察の仕事、母親は海外にいるらしく滅多に帰って来ない。
家族の面から見ると和真と似たような構成だ。
どちらにせよ和真は中学校に入学させてもらえたことを父に感謝している。
きっと祥浩も同じような気持ちだろう。
ここ桜丘中学校は公立なのだが、変わり者が集まることで有名な学校であるという。
「どんな変わった子たちがいるんだろうな」
心の中を読んだかのように祥浩が話す。
「祥、声が大きいよ」
声を抑えて祥浩に話す。
「大丈夫だって、まだ知らない子ばっかだし」
何が大丈夫か分からないが、とりあえず適当に相槌を打つ。
祥浩は和真の1つ席を挟んで左隣に座っている。
自分の名字は桐生だから、おそらくこの空いた席に座るのは、お、か、きのいずれかから始まる名字の子だと和真は思った。
やがて司会を勤める先生の挨拶と共に式が始まった。
校長先生の話の前には左隣の生徒が座っていた。
祥浩と同じ、茶色がかった髪の女の子だった。
校長の長い話の後は、各クラスの担任の発表が行われる。
一組から順に発表されていく。
各クラス毎に小さな盛り上がりと拍手が起こる。
「続いては五組です。担任は数学の工藤先生です」
司会の先生が和真のクラスの担任を呼ぶと、工藤と呼ばれる先生が五組のところにやって来る。
「おい和真、さっき俺たちが会った先生だぜ」
「ほんとだね、運が良いのか悪いのか」
和真が言い終わる前に工藤が話を始める。
「今日から君たちの担任になる工藤だ、一年間よろしく」
筋肉質の若い先生が挨拶を終えると、生徒たちから拍手が起こる。
「それから大野と桐生それと川原、式が終わったらすぐ職員室まで来るように」
周りの生徒の視線を感じるなか、彼らは渋々返事をする。
祥浩が小さな声で愚痴っているのが聞こえた。
この時から和真は最低限のお咎めで済む言い訳を考えていた。
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