入学式

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「和真、冷めないうちに食べるぞ」 総一郎が冷蔵庫からオレンジジュースを持ってきて、椅子に座る。 「あれ、今日もビールじゃないの」 和真がクラッカーのごみを拾い上げながら父の向かいの椅子に座る。 というか、どうしてテレビの横にクリスマスツリーが置いてあるのたろうか。 まだ4月が始まってばかりだというのに。 「今日だけ酒は飲まない、あとそのクリスマスツリーなかなかいいだろ」 和真が目を向ける視線に気づいたのかツリーの説明までしてくれる。 何も飾らないよりは確かにいいかもしれない。 テーブルの上には七面鳥やケーキなどが置いてあり、気分はクリスマスパーティーだ。 乾杯したあと2人は珍しく、それぞれ学校のことや職場の話をした。 いつもはテレビで気まずい空気になってしまうのを避けていたが、今日はその必要はなかった。 夕食が食べ終わったあと総一郎が席の外れたり、キッチンへ行ったりとそわそわしている。 何か話そうとしているのだろうか。 明らかに不自然だ。 彼が再びキッチンへ行き、冷蔵庫から缶ビールを数本取り出すともう1度席に戻る。 「すまない、やっぱりビール飲ませてくれ」 缶ビールのふたを開けて勢いよく1本飲んだあと真剣な顔になる。 「実はな、和真に話さないといけないことがある」 2本目のビールを開けながら話を続ける。 急に顔付きが変わったので和真は身構えた。 「小さい頃のこと覚えてるか」 小さい頃とはいつの頃だろうか。 「和真が小学生になる前に母さんいなくなっただろ。あの時は死んだと話したが、実は違うんだ」 父の話の意味がよく分からなくて首をかしげる。 「つまりな、母さんは今もどこかで生きてるんだ」 「じゃあお母さんは家を出ていったの。」 「まあ、そういうことになる」 「どうして出ていったの」 「父さんも理由は分からない。当時はいろいろあってな」 総一郎が3本目のビールを口にする。
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