7683人が本棚に入れています
本棚に追加
嬉しい気持ちが大半を占めているのはもちろんなのだが、ほんの少しだけ胸の奥でチリチリと焦がれるこの感情が俺にはよく分からない。
詩帆さんとは今まで何度も楽しい時間を過ごし、昔は俺の母さんとも家族同然のように過ごしてきた。
そんな詩帆さんと付き合うことになれれば……きっと楽しい毎日が待っているはずだ。
なのに……どうしても俺の言葉は口から出てきてはくれない。
どうしてだよ。
なんでこんなに詩帆さんから告白されて嬉しいのに……それを考えれば考えるほど悲しくなってくるんだよ。
気が付けば優也の瞳からは涙がこぼれ落ちていて、それを見た詩帆は少しだけ残念そうな表情をした後……手に持っていた髪紐を優也の手のひらに乗せた。
「ごめんね優くん。本当はこんなに困らせたくなかったんだけど……どうしても伝えたかったの」
詩帆さんの悲しげな表情を見るたびに俺は歯痒い気持ちになり、そこでようやく一言だけ震えながらも声にすることが出来た。
「ごめん……俺、詩帆さんの期待に応えられない」
もし自分がそう言われたらどんなに心に傷が付き、なんて残酷な台詞なんだろうと考えてしまうかもしれない。
でもそれを言わなければ俺は詩帆さんのまっすぐな気持ちから背き、逃げ出した事になる。
最初のコメントを投稿しよう!