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それだけ告げて詩帆は優也と別れると、そのまま校舎の方まで走り校庭の隅に生える桜の木の前でようやく足を止めた。
普段あまり走らないせいか、呼吸は乱れて額にも汗が浮かんでいる。
「あはは。私……フラれちゃった」
そしてその事実をポツリと確かめるように呟くと、ずっと溜め込んでいた感情が一気に爆発した。
詩帆にとって優也は唯一無二の存在であり、誰にも代用することは出来ない。
「ずっと優くんみたいに強くなれたらって思ってて、だから……今日はちょっとだけ強くなったつもりだったんだけど……やっぱり駄目みたい」
後から溢れる涙を拭いながら詩帆は桜の木に語りかけるが、それでもまだ涙は枯れそうにはない。
本当は優也に断られた時泣きそうになってしまったが、詩帆はどうにか我慢しここまで辿り着いた。
「こんな時……真歩さんがいてくれたら何て言ってくれるんだろ」
今は亡き優也の母を思い出しながら詩帆はぎゅっと制服の裾を握る。
「真歩さん……私。昔よりもちょっぴり成長してるかな?昔よりも……強くなれてるかな?」
そう言って桜の木を見上げると、まだ咲くはずのない木から一輪の桜の花びらがヒラヒラと落ち、詩帆の髪の上に優しく頭を撫でるように乗った。
昨日まであった真歩の髪紐は優也に返してしまったが、それは告白が失敗したら必ず返そうと決めていた。
「だって……そうしないと真歩さんはきっと早く立ち直って次の恋を頑張りなさいって言うもんね」
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