7683人が本棚に入れています
本棚に追加
これまで瀬良に与えられてきた命令の大半は要人の護衛や裏方の仕事ばかりで、グループ内の地位はそれほど高くはないがそれでもその全てを完璧にこなしてきた。
今回も十蔵の直轄にいる重役からの命令で動き、いつも通り完璧な内容で重役に報告出来ると思っていたが、この1人の青年にその全てが崩されようとしていた。
要人を誘拐された時は生きた心地がしないほど焦らせれ、やっとの事で捕らえた誘拐犯が実は十蔵の一番のお気に入りである小春の婚約者だと言う。
幾度となく難しい仕事をくぐり抜けた瀬良とは言え、ここまで自分に不利な状況が作らされたのは初めてであった。
「こ、小春様……ですがこの少年は私どもの命令の邪魔をした挙げ句に、今度は小春様の名を利用しているのですよ!?」
「それが何か?」
その冷たい一言に瀬良は全身が震え、今まで見てきた光景が自分の立場で映し出される。
恐らく小春は自分の周りにいる人間の心配など考えた事がないはずだ。
小春に歯向かう人間は容赦なく切り捨てられ、上手く下に付くことが出来ても簡単に捨てられてしまうのが関の山。
そんな氷のように冷たい心を持つ人間……瀬良にとっては人形と変わりない人の機嫌を損ねればどうなるかは明白である。
最初のコメントを投稿しよう!