最終章。春の入学式は桜の下で

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まだ指定された時間よりもだいぶ早くに起きてしまった優也であったが、今日だけはじっとしていろというのは無理な話である。 「ちょっと……なんでそんなにソワソワしてんのよ。というか何で休みなのに制服着てるわけ?」 1階の広間でそう怪訝そうな表情をしている稚咲であったが、事情を知らないのでそんな反応をされるのは仕方がない。 「これには海よりも深い事情があるんだ。それより稚咲の方こそ早いな……せっかくの休みなのに」 「休みの日だからこそ早起きするのよ。それに今日は天気もいいし最高ね!」 どうやら本当に今日は機嫌が良いらしく、朝から俺に突っ掛からないのも珍しい。 まさかこんな日に稚咲と普通の兄妹みたいな会話を交わすとは思ってなかった優也は、少し拍子抜けしたようにイスに座り込む。 「なぁ稚咲……」 だから優也はそんな脱力に身を任せながら稚咲にこう伝えた。 「もし俺が明日もこんな感じなら……またあの遊園地に行くか。今度は喧嘩とか抜きにして」 優也は言った後に少し恥ずかしさが込み上げ、テーブルに突っ伏しながら稚咲の返答を待っていると……。 「そうね……今のお兄ちゃんとならいいかも」 表情こそは見なかったが、もしかすると稚咲も俺と同じくらい恥ずかしそうにしてたかもしれない。 いつもなら冗談とか言われてしまうのがオチであったはずだが、稚咲は今日の優也の変化にはもう気付いていた。
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