最終章。春の入学式は桜の下で

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「あっ……いやいや、こちらこそ何か色々と迷惑を掛けてるみたいですいませんね」 男の不自然な態度を警戒しながらも優也はビルの中へと案内されるが、巨大なロビーには誰もおらず、逆にそれが不安を抱かせる。 とにかく俺の役目はなるべくここで時間を稼いで、それから上の階へ行く算段なんだけど……これじゃあ暴れたところで誰も相手にはしてくれないだろうな。 俺の予想ではもう入ったらすぐに敵がたくさんいて、待っていたぞ的な展開を予想していたけど……。 もしかするとこのまま何事もなく十蔵さんの部屋まで連れていってもらえるんじゃないだろうか? そんな甘い考えを浮かべながら男の後を歩いていたが、不意に優也の視線が横に向いた時、ゾワリと悪寒が包み込む。 あれ……あのエレベーターを使って上まで行くんじゃないのか? そう優也は思ったが、男はロビーの端に設置されているエレベーターには目もくれず奥の方へと歩き続け、それはまるで……。 自分を1階の奥へ誘導しているかのように見えた。 そこでようやく自分を十蔵に会わせる気配がないと気付き、優也の足はそこでピタリと止まった。 「どうかされました?」 「あっ……いや。ちょっと訊きたいんですけど、トイレとかってありますかね?あの十蔵さんに会うと思うと緊張しちゃいまして」
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