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好きな色は、答えなかった。
黒は嫌い。
白が好き。
それははっきりしてる。
だけどそれは、わたし自身を否定してしまうから。
質問に答えなかったこと、しろやぎくんはどう思ったかな。
そう考えながら、郵便受けを開ける。
ようやく見慣れてきた、真っ白の手紙が一通だけ。
差出人は変わらず、しろやぎくん。
宛先は、くろやぎさんって書かれていて、思わず手が震えた。
「…………。」
すぐにでも開封したかったけれど、それを邪魔するように暖かな風が吹く。
黒が浸食しないように、わたしは手紙をポケットに仕舞った。
玄関をくぐり抜けて、いつものように自室までやってくる。
一旦深呼吸して、しろやぎくんからの手紙を取り出した。
『肌を刺すような冷たい風が、だんだん柔らかくなってきましたね。
窓の外で、桜が咲いていました。あまりにも綺麗なので、君にも見せてあげたくて。よかったら使ってください。』
封筒に、まだ何か入っている。恐る恐る出してみた。
「桜の、栞だ」
淡い桜色の花弁が一片。
そこから、紙に色が滲んでいる。
自らの手を見て、苦笑する。
わたしの手も、こんな風に綺麗な色に染めてくれたらいいのに。
黒しか生み出さない両手を力無く下ろす。
わたしはぼうっと、返事に何を書こうか、なんて考えていた。
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