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クロスは 古くなったシーツに ハサミを入れていた。
細長い布切れを 何枚もつくったのだ。
一枚を 手に取り グルグルと 巻き付けた。
包帯を用意していたのだ。
教会服は 首まで 隠れるし 心配は 無いのだが 念には 念を入れておかなければ ならない。
教会服に 袖を通し 首までボタンを しっかり掛ける。
そろそろ 祈りの時間だ。
廊下から 皆の足音が 響き始めた。
気を入れ直し クロスは 部屋を出て行った。
『おはようございます。』
と いつもの様に 挨拶を交わしながら 礼拝堂へと向かう。
いつもなら この辺で ルミアとレナが待っていてくれるのだけれど 二人は 既に 行ってしまったのだろうか?
置いて行かれた気がして 焦って 足を早めると 何かに 躓き クロスの身体が 前へと 倒れていく。
その瞬間に 誰かに 抱き留められた。
一瞬 何が起こったか 分からずに 顔を上げると 見知らぬ男の顔があった。
『危なかったね?』
見事な金髪が 眩しい位に 光っている。
碧い瞳が 澄んでいて 引き込まれそうだ。
綺麗な男の人…でも 不思議と 懐かしい感じがして クロスの手が 無意識に 男の服をギュッと 握り締めた。
『怖かった?』
男の言葉に コクリと頷いた。
どうしよう…この握り締めた服を 離したくない。
良く見れば 教会服を着ていない。
この人は 何処か 違う所から 来ているのだ。
離したら もう 会えないかもしれない…。
クスっ…と クロスの頭の上から 聞こえた。
突然に 恥ずかしくなり 顔が 熱くなってきた。
益々 違う意味で 離れられない。
『そろそろ 離してくれないかな?』
クスクスと 男が 笑っている。
『ご…ごめんなさい…。』
バッと 離れて 頭を深々と下げて なるべく 目を合わせないように 先へ 進もうとすると 男に腕を捕まれた。
ビックリして 思わず 振り返ると 男が 少し寂しそうに 微笑んだ。
『…隠し事を してはダメだよ。』
それだけ 言うと 手を離した。
クロスの手が 無意識に 自分の首元に 触れた。
隠し事なんか…。
男に 背を向けて 走り出した。
気付かれた?
背の高い 彼なら 首の包帯が 見えたのかも 知れない。
いや…あれは 包帯の事を言ったんじゃない。
完璧に 見透かされてたんだ…。
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