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此処は 黒い茨に 閉ざされた世界。
古い城に巻き付く黒い茨は 何かを 隠しているようだ。
秘めた雰囲気が 漂う。
この城に住まう主人が 久しぶりに 長椅子で 寛いでいる。
執事のジルドは 微笑ましく その光景を眺めていた。
彼は 長椅子に うつ伏せに寝転びながら 細くて白い足を交互に バタつかせている。
かなり ご機嫌なようだ。
先程から クスクスと笑いながら 時折、独り言を呟いている。
カラカラとワゴンを引きながら 主人の元へと 近付く。
『ワインを ご用意 致しました。』
胸元に手を当て 一礼すると 彼は ニコリと笑って 起き上がった。
『ジルドも 一緒に飲まない?』
ワイングラスを 二つ取り上げ ジルドに差し出した。
『よろしいのですか?』
主人が 勿論…!と 答える。
『では 頂きます。』
まずは 主人にワインを 注ぐ。
次に 自分のグラスに注いでいると 彼は ウットリとした瞳で 呟いた。
『いい紅だね。血みたいだ…。』
『本当に…。』
ジルドが 微笑みながら ワイングラスを 持つと 彼は 乾杯!と 言って グラスを鳴らした。
チン…と 高い澄んだ音が 響いた。
今日は 本当に 良い夜だ。
ジルドは 香りを 楽しみながら そんな満足感に浸っていた。
『僕ね…。やっと 見付けたんだ。』
彼は 帰宅してから ずっと 話したかったのだろう。
ジルドは とても 嬉しかった。
長い間 城を離れていた この可愛い主人が 無事に帰ってきてくれただけで どれだけ ホッとしたことか…。
『それは 良かったですね。長年 諦めずに 探した甲斐が ありましたね。』
そうだ…。彼が ずっと 探し求めていたモノは 最早 存在さえ しているかどうか 怪しいモノだったのだ。
それを 見付けたと 言うなら 快挙だろう。
『うん…。それがね…ジルド。僕に 探し方を教えてくれた人が居てね。その人の アドバイス通りにしたら 見付けられたんだよね。』
『そうでしたか…。随分と 親切な方ですね。』
『うん…。だけど 良いところで 邪魔が入っちゃってさ…。』
『それは 残念でしたね…。』
ジルドが ニコニコ笑って聞いていると 彼は 少し 俯きながら ワインのグラスを回した。
『あいつ…。何で すぐに分かったんだろう?』
そう呟いた彼は ワインを一気に飲み干した。
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