黒い茨

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ジルドは 長椅子で眠ってしまったリアに 毛布を掛けてやる。 閉じられた睫毛が 濡れていた。 彼が 自分の前で泣くのは 珍しい事だった。 ジルドは 長年 彼の側で世話をして来た。 勿論、リアの事を 誰よりも 知っている。 彼の悲哀も 憎悪も そして 矛盾している純粋ささえ 全て 理解している。 だからこそ 本来、リアは 此処に居るべきなのだ。 黒い茨は 彼を守る存在であり この世界は 彼の為に 在るのだから…。 ジルドは そっと リアの涙の後を 拭った。 『…貴方が 泣く必要など無いのに…。』 サラリと 銀色の髪に触れた。 自分は 彼ほど美しい人物を 他に知らない。 けれど リアにとっての あの子は 誰よりも 美しく見えるのだろう。 彼は自分を醜く思ったのかも知れない。 だから…泣いたのだ。 ジルドは 空のグラスをワゴンに乗せ 静かに部屋から出て行った。 『キラ…。』 名を呟くと 闇の中から 黒い眼帯を付けた少年が 現れた。 『お呼びですか?ジルド様。』 キラは胸に手を当て深々と一礼した。 『お前に してもらいたい事がある…。』 『何なりと お申しつけ下さいませ…。』 『また リア様が 城を空けられるのだが…。出来れば 成りを潜めて 護衛を頼みたい。お前なら 容易いだろう?』 『かしこまりました。』 そう答えたキラは 再び 闇へと消えて行った。 キラを 護衛にしておけば 大丈夫だろう。 何故だか 今回ばかりは 嫌な予感がしてならない。 そして 大概 嫌な予感は当たるものだ。 何処の異世界に行くのか分からないのは いつもと同じ事だが リアの様子を見る限り 不安になる。 彼は 捨て身で 乗り込む気なのでは 無いか? と 考えてしまう。 余計な事かも知れないが リアの存在が 消えたら この世界の 秩序は保てなくなる。 闇と茨に 包まれた静寂な世界を必要としているモノ達が 大勢 居るのだから…。 此処に 居れば 誰も傷付かずに 済む筈なのに…。 リアは どこまで 自分を傷付けて行くのだろう? その行為を 止める事が出来ない自分をいつも咎めてしまう。 その繰り返しは いつか 終わるのだろうか? ジルドは ワゴンを引きながら 城の奥へと消えて行った。
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