黒い茨

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ルミア達が 元の位置に ベッドを戻してくれた。 クロスは ありがとう…と ペコリと お辞儀をすると 皆が 優しく 頭を撫でて 部屋を出ていく。 ルミアが 一番最後に 部屋を出る時に ドアの前で クロスに 振り返った。 『クロス…お前…怪我でもしてるのか?』 ルミアの言葉に 血の気が引いていく思いだ。 『どうして?怪我なんか…してないけど…。』 必死に 動揺を隠す…。 無意識に 自分の首元に触れてしまう。 『いや…。怪我して無いなら 良いんだけどな。これ…落ちてたから。』 ポイッと 投げられたのは 自分が 作った包帯を巻いておいた物だ。 咄嗟に 受け取ると ルミアは また 後で来る…と言って ドアが閉められた。 受け取った包帯が 手元から ポトリと落ちる。 巻かれていた包帯が コロコロと転がり床の上で 解かれていく。 クロスの瞳からは 大粒の涙が 零れ落ちた。 ―嘘を ついた― 首の茨を 隠すために 自分は 大切な人に 嘘を言ってしまった。 今朝 会った金髪の男に 言われた言葉を 思い出す。 ―隠し事をしては ダメだよ― こうなる事を あの金髪の男は 見抜いていたのだ。 隠す事は 罪を重ねる事に 繋がると 教えてくれていたのだ。 けれど…もう 遅い…。 自分は 嘘をついた。 その辛さに 気付いても この茨の事を 話す事は 出来ない…。 罪は 過程であり 罰は 結果だ。 だから 皆に嘘をついてでも この事は 隠し通す。 必ず 自分で 解決してみせる。 例え…罰を与えられる結果になっても…構わない。 クロスは ブチっと 教会服の 衿元を 乱暴に 開いた。 白いボタンが コロコロと 床に転がる。 はだけた首元の包帯には 血が 僅かに 滲んでいる。 強く締め付けられた証拠だ。 リア…彼は 何処に居るのだろう? 今なら分かる気がする。 あれは夢では無かった…と。 自分は実際に、リアに会っていた。 だから自分は 知らなければ ならない。 リアの事も 銀の薔薇の事も…。 そして…金髪の男の事もだ。 彼には、会った事があるような気がしてならないからだ。 まずは 知ることから 始めなければ 何も 進まない。 クロスは 頬の涙の後を ゴシゴシと拭い去る。 もう 涙は 止まっている。 そして…クロスは、教会服を脱ぎ捨てた。
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