黒い茨

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『苦しい?』 そう聞かれても 茨の棘が 首に食い込み 声を出そうものなら 焼けるように 熱く痛い。 『僕の名は リア。君の名を知りたいんだ。』 茨の締め付けが 緩んだ。 自分は また 咳込み 落ち着かせてから 素直に答えた。 『ぼ…僕の名は…クロス。』 素直に答えた筈なのに 再び 強く締め付けられた。 手で 茨を掴むと ヌルリとした血の感触がして 背筋に 寒気が走った。 リアは 何が気に入らないんだろう? 『違う。僕が 知りたいのは 君の本当の名前なんだけど…。』 本当の名前など無い。 クロスと言う名前以外 与えられた事など 一度も無いのに…。 熱い痛みに 目を細めながら リアに 違うと 訴えたが 戒めは解かれない。 リアの視線が 自分の背後に移された。何か気配でも感じたのだろうか? 唐突に リアに引き寄せられ 耳元で 囁かれた。 ―クロス…次は 離さないよ― 僕は その瞬間に 意識を失った。 ハッ!と 目覚めると そこは見慣れた自分の部屋だった。 ベッドで 眠っていたようだ。 あれは…夢だったのだろうか? クロスは ベッドから 降りて 寝巻から 教会服に着替える。 一瞬 首が チリっと痛み 恐る恐る触ってみたが 怪我をしている様子も無いし 血が流れた気配も無かった。 やはり 夢だったのだ…と ホッと安心して 息をついた。 着替えを済ませ、部屋から 出ると いつものように 自然に囲まれた美しい風景だ。 ここは 祈りと癒しの世界…。天界の一部に存在する。 神々の教えを説き また 天界に住まう者達を 癒す場所なのだ。 祈りと癒しの世界に住まう者は、全て教会の者だ。 巨大な大聖堂に身を置き 自分達の使命を 果たしている。 常時 色々な世界から 悩める者達が 集まる特殊な世界なのだ。 天界の法の番人とも呼ばれている。 『クロス…。遅刻だな。』 司教のルミアに チラリと睨まれてしまった。 『寝過ごしちゃった。』 と クロスは、無邪気に 舌をペロと出した。 『今日の お前に 神の加護は 無いな。』 ルミアに コツンと頭を 突かれ クロスは ごめんなさい…と 渋々、反省した。
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