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ルミアが 運んでくれた夕食を 食べ始める。
シスター達は クロスの為に 特別に作ってくれたらしく 天使のケーキに クロスの名と 簡単な お見舞いの言葉が 添えられていた。
―早く 貴方の元気な笑顔を見られますように―
他愛ない一言だけれど 少しだけ 目頭が 熱くなった。
優しい心遣いに感謝する。
食事を終えて 軽く食器を洗い 片付ける。
いつもなら 書物を読む時間なのだが やはり ルミアに言われた通りに 今日は すぐに 休もうと決めた。
教会服のまま 寝かされていた為 寝巻に 着替えなければならない。
シワシワになっていたので 裸のまま 教会服をハンガーに吊るし 窓際の壁に 掛ける。
自分の細い身体が 黒い窓に くっきりと 映っている。
窓ガラスに 映る自分の姿に 目を丸くした。
これは 何かの錯覚なのだろうか?
それとも 暗示のようなものなのか?
窓ガラスに映っているクロスの身体には 黒い茨が 巻き付いているのだ。
まるで 生き物のように クロスに 巻き付き 蠢(うごめ)いている。
首が痛い…。熱く…苦しい…。
紅い血が 滴っていく。
自分の身体に 何が 起こっているのか分からない。
両手で自分の身体を摩る。
実際には黒い茨が巻き付いている訳では無い。ゾッと身体中に寒気が走る。
足が ガクガクとなりだし クロスは その場に 力無く座り込んだ。
無意識に 寝巻を手繰り寄せて 着込む。
暫くは何も考えられず その場から 動けなかった。
ボーッと 宙を見つめた虚ろな瞳に 今は 何も映らない。
やがて 空が 明るくなりだし 窓から 僅かな 光が射した。
クロスは 顔を上げ 少し高い窓辺を見つめる。
光が 次第に眩しくなると ようやく 思考が 動き出した。
立ち上がろうとすると 足が酷く痺れていた。
身体も 手で触りながら確認したが 傷も無ければ 茨も無い。
やはり 錯覚だったのか?
しかし 首に 時たま走る痛みは ある。
クロスは ベッドの枕元から 鏡を取り出し 首元を見てみる。
胸は ズキリとしたが 覚悟は していたから すごいショックは 受けなかった。
クロスは 鏡を見ながら 首元を 指で なぞった。
黒い茨が 肌に染み付いたかのように クロスの首を 捕らえている。
まるで 枷だ。
こんな刺青みたいなモノを 教会の者に知られたら…大騒ぎになってしまう。
誰にも 知られては ならない…。
僕は ずっと この世界に 居たいから…。
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