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『これで よろしいですか?』
二人が 退室した部屋で 大司教が 呟くと フワリと 一人の男が 現れた。
『申し訳ありませんでした。心優しい貴方に こんな お願いをしてしまって…。』
キラキラと光を浴びた金色の髪が 眩しい。
『貴方様が 謝る必要など ないですよ。私は ただ 大司教と言う立場を 利用しただけですから…。』
大司教は そう言って 立ち上がり 深く頭を下げた。
『頭を 上げて下さいませんか?少し お話を しましょう。』
男が 大司教の肩に 手を掛けた。
『…いいえ。あの子を…クロスを助けて頂き ありがとうございました。何と 御礼を申し上げてよいか…。』
『当たり前の事です。貴方 一人で 背負う必要は ありません。あの子を 預けたのは こちら側なのですから…。』
大司教は もう一度 深く頭を下げてから 顔を上げて ニコリと 微笑んだ。
『ハーブティーをいかがですか?』
男も ニコリと 微笑んで 是非…と 頷いた。
テーブルに置いてあった二つのカップを端っこに寄せ 新たに ハーブティーを注ぎ どうぞ…と 差し出すと 男は 手に取った。
香りを堪能してから 口に運ぶ。優雅な仕種に 思わず溜息が出そうだ。
『お聞きしたいのですが…。』
大司教が 話を切り出すと 男は 首を傾けて どうぞ…と 微笑んだ。
『クロスは 何故 あんな場所に行っていたのでしょうか。私は 全く 気付けなかった…。あんな 世界に繋がる道が あったなど…。』
もし この男が 助けに入らなければ どうなっていたか分からない。
クロスだけじゃない…。
この世界までもが…。
大司教は その先を 考えたくなくて 無意識に 頭をブルブルと 横に振った。
『…恐らく あの子は 無意識に 誘われたのでしょう。』
『誘われた…のですか?一体 誰に…。』
『…それは まだ 私の口から 言えません。まだ 干渉が 出来る段階では 無いので…。けれど 一つだけ 明かして差し上げましょう。』
男が カップをテーブルに置いた。
『貴方は 銀の薔薇を ご存知ですか?』
銀の薔薇…もちろん聞いた事は ある。
天界では タブーになっている程の黒い噂の多い話しだ。
あまりにも古く、実在したとか しないとか 曖昧なだけで 確信は無い…。
最近では 全く耳にしなくなったが…。
大司教が頷くと 男は 耳元に唇を寄せ囁いた。
その言葉に 大司教は絶句した。
まさか…!
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